その時又貞保が言った。
「然らば、兎にも角にも各々の計らいに漏れるべきにあらず。さらば、今一人相添玉ふべし。これほどの公界に一人罷り出るべきにもあらず。次には頓病などと申すことも候へば、一人にては覚束なし。又は何事にても御尋ね有らん時、談合無くては叶わぬことも候べし。」
かれこれの為にもう一人と言われれば、皆なるほどとも思うが、かといって思い当たる人物もいない。深田中務(中務少輔氏榮)が行くべきところであろうが、こういった公界には馴れない人であるからいかがなものであろうか。吉田右馬助は入道して殊圓と号している。宗金の嫡子内蔵太夫(吉田貞棟)は病気中。土佐(吉田守致)は盲目。占部大膳(大膳進種安)は眼病である。寺内豊後こそふさわしかろうが法頭で老人であるからそれも叶うまい。>次へ
太閤殿下下向:12│3│4