一同が言うには、
「これは思いもよらぬことを承(うけたまわ)り候物かな。そもそも宗像の御家を主人と仰ぎ奉ること何十代という事をしらず。我々一族も、また何十代といふ事をしらぬ御家人なり。しかるに家人として主人を倒し申さん事、田嶋の御神の神慮に背きて御罪を蒙(こうむら)んこと疑いなし。このことにおいてはぜひ共に思いとどまり給ふべし。さなきに於いてはこの者どもは同意すべからず」
と座を立って帰ってしまった。氏任は興さめてあれやこれやと思い煩っているうちに、このことが露見したので「今は逃れぬところ」と思い同意の者達二百余人をかり集めて十月十日許斐岳に取り掛かった。 占部右馬助尚持は馳せ参じて合戦火花を散らして時を移す。 >次へ
許斐氏任の謀反:1│2│345